個人適応型の画像を用いた在宅高齢者のための思い出会話サービスの研究(堀江)
背景
近年,日本では高齢化が進行しています.我々の研究グループでは,在宅高齢者を見守り・支援するシステムの研究開発に取り組んでいます.本研究では,在宅高齢者の会話機会減少や認知症患者の増加に着目しました.会話機会の減少について,高齢者の単身世帯の場合,その他の世帯と比較するとほとんど毎日会話を行っている人の割合が少なかったり,主観的に健康状態が良くないと回答した人は,会話の頻度が少ない割合が多いといった調査結果が発表されています.認知症患者の増加について,2025 年には高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています.よって,認知症の予防や周辺症状の緩和が必要となります.症状の緩和方法として,回想法や共想法があります.これらは高齢者が自分自身の過去の思い出や現在の趣味嗜好に関して会話を行うことで認知機能を使うといった方法です.これらの背景を踏まえて,高齢者にとって会話を行うことは重要であると考えます.よって,高齢者に会話の機会を提供することが出来るサービスが必要となります.
課題
高齢者に会話の機会を提供するサービスの開発において以下の3つの課題に着目しました.
- 課題1:介護負担の増加
- 課題2:個人によって話しやすい話題は異なる
- 課題3:会話に前向きに取り組んでいるかの判断は難しい
目的とアプローチ
本研究の目的は介護者に負担をかけずに在宅高齢者に本人の思い出や趣味嗜好に関する会話の機会を提供することで,孤独感を和らげたり,認知症の周辺症状の緩和を支援をすることです.
思い出会話サービスでは上記の課題を解決するアプローチとして以下の3つの機能を実装しました.
- アプローチ1:思い出会話機能
- 先行研究であるPC-Mei(音声対話エージェント)と連携することで介護者に負担をかけずに高齢者に会話機会を提供するサービスを実装しました.高齢者はエージェントを相手として雑談や思い出話をすることが出来ます.
- アプローチ2:画像登録機能
- エージェントと会話する際に話題とする画像を登録する機能を実装しました.個人の趣味嗜好情報や利用者の思い出の写真を登録することが出来ます.エージェントが趣味嗜好に合った画像や思い出のある写真を表示するので,それを話題として会話を行います.
- アプローチ3:会話記録機能
- 思い出会話サービスを通して行った会話を記録する機能を実装しました.家族や介護者が会話履歴を見ることで,利用者の興味を知ることが出来ます.
実験
サービスの評価実験を行い,個人適応した話題を提供する必要性や会話機会を提供することで孤独感の解消や楽しい気持ちにさせる効果があることが分かりました.