在宅高齢者の生活を支援する音声情報提示システムALPSの研究開発(明石拓弥)
研究背景
現在我が国は超高齢社会に突入しており、高齢者に対する介護リソースが不足している状態です。
また、人間は年齢に伴って認知機能は自然と低下するものであり、生活に対する支援が必要となります。MCIと呼ばれる軽度認知障害の方も年々増加傾向にあります。
しかし外部の介護リソースは不足しているため、現状は基本的に同居家族による在宅での生活支援が必要とされています。
このような状況は非常に好ましくありません。なぜなら、支援を行うご家族は高齢者介護などのプロではないため、高齢者につきっきりで支援をすることは大きな負担やストレスとなってしまうと考えられるからです。
介護者にストレスがかかっている状況では、高齢者に対しても満足な支援が行われにくく双方に対してよくないことになってしまいます。
先行研究とその課題
この問題に対して、様々な観点から在宅介護を支援するAssistive Technology(アシスティブテクノロジー)が考案、開発されてきました。
これは、目が悪い人には眼鏡を、足が悪い人には松葉杖をといったように、介護に対しても適切な補助がなされるべきという考えによって生まれたものです。
例えば、ICレコーダーに録音された支援情報を繰り返し再生することで、高齢者から何度も行われる同じ質問に対して介護者が対応する必要性が低減するシステムが実際に運用されています。しかしこれらはICレコーダーを対象者の近くに置いておかなければならないなどの課題があります。
このほかにもよりハイテクなものもいくつか開発されていますが、そのどれもが高価であったり一般家庭への導入にはハードルが高いという課題も存在します。
研究の目的とアプローチ
本研究の目的は在宅高齢者の生活スタイルに合わせて特定の時間と場所において適切な情報を提示することで在宅生活を支援することとしました。
これを実現するために、私たちはIoTスピーカーと呼ばれる人感センサーとスピーカーを接続したIoT機器を宅内に複数配備し、人感検知をトリガーとして時間を参照して情報を提示するルールベースに駆動するシステムALPSを開発しました。
ALPSの概要
ALPSのアーキテクチャは以下に示すように設計しました。
まず、A1に示されるようにIoTスピーカーを配備します。
次にA2に示すように介護者や家族がECA(Event-Condition-Action)ルールと呼ばれるものを設定します。これがALPSの動作を司るルールとなっています。
- Event:サービスが発火する契機(今回は人感検知をした場所)
- Condition:サービスを実行するか判断する条件(今回は時間帯)
- Action:実際に提示される支援情報
以上の三つの要素から構成されるルールとして登録されています。
最後にA3のように情報のやり取りが行われます。
例えば、「10時から11時」に「玄関で人感検知」をした場合「カギは持ちましたか」という情報を提示するというルールが登録されていたとします。この場合、高齢者が玄関に10時30分に現れた際にはConditionの条件である10時から11時という条件を満たしているため、「カギは持ちましたか」という情報がスピーカーから提示されるという流れになります。
実際の高齢者宅での実験
実際に高齢者宅に配備し、実験を行いました。
実験後に高齢者を対象にとったアンケートによると、実際に忘れ物をして家に取りに帰る回数が減ったという意見や、手すりを意識的に持つようになったり水分を意識的に摂取するようになったという意見が得られました。また実験器具の設置もコンセントに接続するのみで自動的に起動するため扱いが簡単、設置してあっても気にならないという意見も見られました。
このように、研究室外の環境であってもきちんと動作し、高齢者の生活を支援できることがわかりました。