個人適応型の動画を活用した在宅高齢者のためのストレス解消サービスの研究(堀江)

背景

日本は超高齢社会に直面しており,今後も高齢化が進展すると見込まれています.それに伴い,要介護者の数が増加している一方で,介護職員の人材不足が問題視されています.これに対して,政府は高齢者が要介護状態になったとしても,住み慣れた地域で生活を続けられる体制(地域包括ケアシステム)の構築を進めています.この体制では,施設介護から在宅介護への転換を促しています.よって,今後在宅高齢者の数が増加することが考えられます.

高齢者は長い在宅生活での孤独感や生活の悩みから生じるストレスにどう向き合うかが課題となります.このような背景の元,我々の研究グループではデジタル技術により在宅高齢者を見守り支援するシステムの研究開発を行っています.その中のひとつとして,在宅高齢者が簡単な操作でインターネット上の動画(YouTube)を視聴できる動画再生サービスを提案しました.このサービスの目的は,動画視聴を通して高齢者のストレスを解消したり,気分をよくしてもらうことです.さらに,動画視聴中の高齢者の顔表情の特徴変化を抽出・分析することで,科学的ケアのエビデンスにつなげることを検討しました.しかしながら,再生する動画は家族や介護者が手動で選定するため,高齢者本人が本当に見たい動画である保証はありません.また,動画の選定は家族や介護者の負担となります.よって,高齢者本人の趣味嗜好に合わせた動画を自動的に提供するシステムが必要となります.

課題

YouTubeの視聴を通して,高齢者のストレス解消を支援するシステムの開発において以下の3つの課題に着目しました.

  • 課題1:高齢者が1人でPC,スマートフォンを操作することは難しい.
  • 課題2:個人によって好みの動画は異なる.
  • 課題3:本当にストレス解消出来たかを知ることは難しい.

目的とアプローチ

本研究の目的は,在宅高齢者が自分自身で好みの動画を視聴し,ストレスを解消出来るようにすることです. この目的を達成するために「らくらく動画サービス」を提案します. らくらく動画サービスでは上記の課題を解決するアプローチとして以下の3の機能を実装しました..

  • アプローチ1:動画再生機能
    • YouTubeの動画リストを与えるとそれらの動画を逐次的に再生する機能です.デジタルデバイスの操作に慣れていない人でも簡単に操作出来るような画面設計を行いました.
  • アプローチ2:動画リスト作成機能
    • 利用者個人の趣味嗜好に合わせて動画のリストを作成する機能です.アンケートで個人の趣味嗜好情報を取得して,その結果から動画を自動的に検索するシステムを作成しました.
  • アプローチ3:効果測定機能
    • 動画の視聴がストレス解消につながったかどうかを測定する機能です.ストレスの解消具合を数値で測定することは難しいため,動画に対する主観的な評価を取ることとしました.評価は「面白くない」,「あまり面白くない」,「どちらでもない」,「少し面白い」,「面白い」の5段階としました.

実験

研究室に所属する教員,学生に本サービスを利用してもらう予備実験をしました.実験の結果,視聴した動画に対して高い評価を得ることが出来たため個人適応した動画の推薦が可能であることが分かりました.